なぜ、医師はあなたの薬を減らさないのか? その3 専門医クーポン

その1病院の収入について
その2 勤務医の苦悩
のつづき
病院に行くことが特別なことではなくなり、病状の重い人軽い人、治療困難な病気の人、唾付けて3日寝てれば治る人、あらゆる方が受診されるようになりました。
健康番組やクスリのCMでも、最後に『お医者さんに相談して下さい』と必ず免罪符のように付け加えて、何でも病院で受診を促します。
病院にかかることが特別であった時代は既に遠くなりました。
専門医クーポン
我が国の優れた点に国民皆保険制度があります。
この保険制度では、やることが同じなら、診察代は専門の大学教授でも昨日研修が終わったお医者さんでも、同じです。
いうなれば保険証には『同じ料金で専門医にアップグレードできます』というクーポン機能が付いているようなものです。
では、クーポン機能を使って専門医を受診するとどうなるかを考えてみましょう。
高血圧・コレステロール・血糖値・体重・骨密度・・・
これらの数値の基準を守ると、寿命が長くなることが統計的には判明しています。(これについては後述します)
専門医は、これらの基準を守るようにするにはまずあなたの現状を把握する必要があります。
そうです、検査です。
検査の結果を見て生活状況を聞き、指導をしてくれます。
細かい、時間がかかる指導なら栄養士さんや理学療法士さんが、忙しい医師に変わって優しく教えてくれます。
指導を受けて、それでも基準を守れなければ、それを満たすべく投薬をおこなうことになります。
専門医試験では、診療の基準となるガイドラインを熟知しているかどうかが問われます。
そのガイドラインは『寿命を延ばすためにどうすれば良いか』が書いてありますが、そこにはたくさんのクスリを使っても最高の効果(=長い寿命)を達成する方法が載っています。
専門医はガイドラインを守る事で自らの存在価値を高める、ガイドラインの番人と言えます。
番人と言われて思い出すのが法の番人といわれる役所の方々です。
お役所の人に『ちょっと法からは外れてますが、他人に迷惑かけないんで○○してもいいですか?』と聞くと普通の役人なら『OK、法律違反ですが、いいですよ!』と答えが返ってくることはありません。
専門医に『血圧高めでもいいから、この薬止めてくれませんか?』とお願いしても、副作用が出ない限り『いいですよ!』という返事が返ってこないのは、同じ理由です。
副作用が出たクスリを中止すれば、違うクスリを処方して基準値を守ろうとします。
基準値を守ろうとしない専門医は、監査をしない監査役のようなもので、存在理由がなくなってしまいます。
専門医からすれば、『基準値守るつもりないんやったら、はじめから専門外来に来んかったらええのに』と思うわけです。
ではクスリを減らしたい、クスリを飲むことがストレスになっている人はどうすればいいのか?
簡単です。
はじめから専門医クーポンを使わなければいいのです。
美容院で『カットと同じ料金でパーマをかけられます!』というクーポンをもらっても、パーマをかけても似合わない(たくさんクスリを飲むことに抵抗がある)、時間がかかるからイヤ(通院がイヤ)、髪が傷むから困る(副作用が心配)、そもそも毛がない(残された寿命が短い)、などでパーマ(専門医のきっちりした投薬)が要らないと思う人はこのクーポンを使いません。
同じようにクスリをたくさん飲みたくない、生活指導でヤイヤイ言われるのがイヤ、検査も受けたくないという人はクーポン機能がついた保険証を持っているからといって専門医にはかからない方がいいかもしれません。
専門医の方が向いている人は?
ただし、統計上は、たくさんクスリを飲んでも基準を守った方が長生き出来る様です。
SPRINT (Systolic Blood Pressure Intervention Trial)試験という血圧に対して行われた大変有名な調査があります。
薬を使って血圧を140mmHg以下に抑えた標準群と、120mmHg以下に抑えた厳格群に分けて、追跡調査を行った試験です。
心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳卒中、心不全の発症や心血管死が、100人当たりでみると標準群2.19人/年に対し、厳格群では1.65人/年と減少。
→100人当たり0.54人/割合にすると25%、有意にリスクが低下。
また総死亡も100人当たりでみると標準群1.40人/年、厳格群が1.03人/年と減少
→100人当たり0.37人/割合にすると27%、有意にリスクが低下。
この解説を読めば、『血圧を下げると25%も病気が減るのか(もしくは27%も死亡が減るのか)!』と思う人と、『血圧を下げなくても100人当たり0.54人しか病気が増えないのか(もしくは0.37人しか死亡が増えないのか)!』と思う人に分かれると思います。
個人的には、前者に共感する人は専門医に、後者に共感する人は言うことを聞いてくれるお医者さんにかかった方が幸せになれるような気がします。
ただ、言うことを聞いてくれる・厳しい事を言わないお医者さんにかかると、クスリや検査やお説教(生活指導)のストレスからは逃れる事ができるかも知れませんが、寿命が多少縮むかも知れません。
私は外来では『100歳を目指すならしっかりクスリを飲んで下さいね。』とお話ししています。
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私は専門医の先生方が最も力を発揮する場所は、外来ではなく入院患者さんに対してだと思っています。
この事については後ほど書こうかと思っています。
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