糖尿病の合併症って・・
- arigatouashiya
- Jul 8
- 5 min read
Updated: Jul 9
**注意**
こちらの文章は「糖尿病だけど、透析/失明/切断にならないか心配」という方に、過度な心配はしなくても良いですよ、と安心していただくための文章です。
悪くなっても放っておいて大丈夫、という趣旨ではありません。

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ここ最近、「血圧やら糖尿やらはあんまり気にしなくても構わない」的な内容の、和○先生の本を読んだという患者さんが多く来られます。
しかし、糖尿病の専門医にかかると、「HbA1cが7%を超えると合併症の危険があります」と言われます。
どっちやねん。
この食い違いは、気にしない派の和○先生のいう『合併症』と、専門医のいう『合併症』の意味が違っているためにおこる現象です。
気にしない派の先生は、「透析・失明・下肢切断」という糖尿病の3大合併症を指しています。
ユルい管理でも、最悪の結果にまでは至らないので気にするなという意見。
キビシい管理をという専門医の先生は、「動脈硬化」の事を合併症と言っています。
動脈硬化は言い換えると老化です。人間は1年経てば確実に1年分老化するのですが、程度によりますが、糖尿病は放置すると5%増しで老化すると思ってください。老化を防ぐためには厳しい管理が必要という意見です。
5%増しの老化を2%なり3%増しでしのごうと言う医師と、老化はどうせするから放っておけ、透析・失明・下肢切断さえならなければ良い、という医師では、意見は合いません。
子供の受験に際して「難関校を目指せ!」というエリート会社員の親と、「行けるとこ行っといたらええがな」という会社オーナーの親では意見が合わないのと同じです。
私が糖尿病の診療に関わるようになって20年以上経ちます。
しかし「透析・失明・下肢切断」という糖尿病の3大合併症をきたす患者は、10年前に開業してからは私の担当では一人もおりません。
そもそも開業医のところにはひどい糖尿病の患者が通わないという偏りは当然あるでしょう。
実際、今世紀初めなら糖尿病の状態の指標となるHbA1c(糖化ヘモグロビンA1c分画)という検査で初診時に15%を超える患者*がいれば、「すぐに大きな病院に入院してインスリン注射を始めなさい」、と紹介状を書いていました。
※HbA1c 6.5%以上が糖尿病の診断基準に該当。
しかし、2010年頃から使われだした数々の糖尿病の新薬によって、血糖コントロールが大幅に良くなりました。
おかげで今ではそんな患者でも「しっかり薬飲んだらインスリン注射も使わずに済むかもね、キチンと通院してね」と約束し、処方箋を書くだけの場合も多いのです。
ちなみにHbA1c 15%であればみるみるうちに痩せてくる、なんだかとってもしんどい、水を大量に飲んでも尿が多量に出て喉が乾いて乾いて仕方ないなどの症状が出ます。
統計を見てみると、透析を新規で始める方と糖尿病患者の割合は
2002年 透析を始める人 36,115人 うち、糖尿病患者 13,832人 38.3%
2022年 透析を始める人 33,710人 うち、糖尿病患者 13,180人 39.1%
で、大きく変わっていません。
ところが糖尿病の患者数は
2002年 740万人
2022年 1,200万人
と1.5倍に増えています。
対象になる人の数が増えているけど患者数は変わらないので、新規で透析を開始する糖尿病患者の割合は糖尿病患者全体のうち
2002年 0.19%
2022年 0.11%
と減少しています。
同様に
2022年に新規に視覚障害の認定取得した(2022年、推計)約1.2万人中、糖尿病性網膜症が原因の約20%→約2,400人=0.02%
下肢切断率(2008−2010)0.05%
と、銀行預金の利息レベルです。
糖尿病に関しては2002年と2022年までの間にインクレチン製剤やSGLT2阻害剤などの画期的なクスリが上市され、健康意識が高まったこともあり、、血糖コントロールは改善しています。
また、難病のI型患者さんについても、インスリンポンプという新しい機械と血糖モニターの進歩により、血糖コントロールは精密にコントロールできるようになりました。
言い換えると全体的に軽症化しています。
糖尿病データマネジメント研究会では資料では全国の調査医療機関から糖尿病患者のHbA1cを集計して公表しています。
2022年のデータでDM患者のうち、最上位の患者はHbA1c >12%で約60,000人中150人。
概ね0.4%です。
これぐらい糖尿病コントロールが悪い状態が続けば10年で糖尿病だけが原因で透析状態に至るかもしれません。
普通はHbA1cが12ともなると、頻尿・口渇・全身倦怠感が結構強く出て、受診します。
しかし中には数値の割には症状が軽い・医者嫌い・我慢強い・お金/時間がないなどの理由で数年以上受診されない人もいらっしゃいます。
そういう方の場合は確かに糖尿病の悪化によって「透析・失明・下肢切断」という糖尿病の3大合併症を起こす方もおられるでしょう。
しかしデータを見るに、糖尿病が多少悪いぐらいではなかなかそこまでには至りません。
また、健診で糖尿病の悪化を指摘され、2年目に産業医や総務/人事に怒られて受診、という例でもその後に適切に投薬を受ければ上記のような最悪の事態は避けられます。
ただ、3大合併症は一度起こってしまえば治すことは不可能です。
言わば糖尿病のせいで崖に近づき、別の病気と合わさって崖から落とされてしまう、ということはあり得ます。
病気(特に生活習慣病)でも人生でもそうなんですが、自分から「気をつけた方がいいですよね?」と聞いてくるタイプの方は崖に近づくことはなく、「まだまだ大丈夫ですよ!」と言う方こそ、崖っぷちに吸い寄せられる傾向にあります。
そうして崖に近づいた方が、腎盂腎炎などの腎臓に影響する病気になったために状態が悪化して、透析導入という崖から落ちてしまう、ということは十分あり得ます。
厳格に血糖コントロールする専門医の「ちゃんと節制せえ」という言葉の裏には「長生きしたいやろ?」という意味があります。
血糖を気にするなと書いておられる先生は「好きなもん食べてもええ」と仰いますが、それには「老化は受け入れろ」、「ホンマに悪なったらアカンから、病院にはちゃんと通うとけ」という暗示が隠されています。
TV・新聞・週刊誌などを見ても、そういう裏の意味までは書いていないので今回は数字を交えて解説してみました。
個人的には若い頃は少しキツ目に、高齢者になったら節制による伸びしろが少なくなるので、ユル目にするのがいいのではと思っています。
伸びしろについては下記を参考にして下さい。
*令和5年度の日本における主な年齢の平均余命:年(平均してあと何年生きるか)です。
男 50歳:32.6年 60歳:23.7年 70歳:15.7年 80歳:9.0年 90歳:4.2年
女 50歳:38.2年 60歳:28.9年 70歳:20.0年 80歳:11.8年 90歳:5.5年



























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