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医学資料の見方:血圧の薬はホンマに飲まなあきませんか?

Updated: Nov 12


 次のグラフは日本人を対象にした大規模調査、NIPON DATA80を解析した論文載っている表を加工したものです。


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 図1は正常血圧を100とした場合の血圧が高い人の平均余命を年齢・高血圧の程度を分けてグラフ化したものです。



 これを見てみると、特に女性では血圧が少し高いだけで、寿命を縮める危険性が年齢が上がるにつれて高くなるように見えます。

特に80歳以上の女性は少し高い程度の方でも正常の方に比べて10%以上縮まっています。

やっぱり血圧が高いと血圧のクスリを飲んだ方が良いのでしょうか?

『だから血圧の薬を飲まなきゃ』派の先生はこういうデータを見せがちです。


 ただ、このグラフを見て、勘の良い方なら気付くことがあります。

グラフが80%から始まっていることです。


これを0%を基準に描き直してみましょう。


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 同じ数字を使っていても、表現の仕方が変わると、印象がずいぶん変わります。

こうしてみると、どれも大差ないようにも見えます。

クスリを飲むべきか止めても良いのか、ちょっと分からなくなってきました。



 ここまでは割合に注目して、表示していましたが、次は実際に縮まる年数をグラフにしてみましょう。

図3は各年齢でどの程度寿命が縮まっているかを年齢、血圧レベルごとにに示しています。



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 少し、具体的になってきました。

40歳の女性に注目すると、クスリを飲んだり減塩したりで血圧が正常化すると、そのままでいるより軽度の高血圧(I度)なら2年弱、そこそこの高血圧(II度)なら4年弱ぐらい寿命が延びる、と読み取れます。

 しかし、80歳の男性なら同じ事をしても、軽度の方ならほとんど伸びは期待できないけれど、そこそこの方は9ヶ月ぐらい伸びる。

と言えます。

年齢・性別や高血圧レベルによって、効果の出方が違うのが興味を引かれるところです。



 ここまで、あくまで比較した数字だけを出して来ましたが、この論文には正常血圧の方の平均余命も載っていました。

それも合わせてグラフ化したものが図4です。


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 このグラフを見たとき、私は「ちょっとは効果あるかも知らんけど、そんなに変わらんがな」という印象を持ちましたが、皆さんはどうですか?



『数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う』 

データ・資料については必ず『割合ではなく実数』を見る習慣をつけると、より実像に近づけます。

最近銀行預金の金利が0.02%から0.1%と、0.08%上がったことにより5倍に上がりました。

100万円を1年預けると、従来は200円しか利息がつかなかったものが、800円増えて1,000円お金が増えるようになりはしました。

銀行預金は高血圧の薬と違って効果は確実で一定です。

40年前ならいざ知らず、令和7年の今、『お金増やそうと思って3億円銀行に預金した』と言ったら、アタマおかしいんちゃうかと思われても仕方ありません。

3億突っ込んで貰える利息は30万




  私は内科の外来をしているので、患者さんからよく「血圧の薬はホンマに飲まなあきませんか?」と質問を受けます。

上に書いているような事を話しながら、私は必ず「患者さん次第ですよ。」と、答えています。



 医師という立場では長生きは正しい、長生きは善、とは思います。

 50代の今の私の死生観は、いろいろな経緯もあり、良寛さんの

「災難にあう時節には、災難にてあうがよく候。死ぬる時節には、死ぬがよく候。」

が近いのです。

医師という立場からは「それを言っちゃあ、お終ぇよ」ですが、検査だクスリだとイヤイヤ病院に通ったり、するつもりもないのに減塩の話を聞かされたり、味気のない減塩食を食べるのは、「正しいかもしれないが、楽しくない」ので、私自身は楽しい方を選びます。



 日本に生まれている幸運。

平和な時代に生きている幸運。

蛇口をひねれば飲める水が出て、暑い時にはエアコンをかけられる家に住める幸運。

そういった幸せな時代に生きている身としては、ちょっと(あくまでちょっとです)血圧が高い程度で縮まる寿命なんて、知れていると考えるからです。

 この考え方にについてはあくまで私自身が「楽しい」人生を送りたいと思っているからで、長生きすることに意味を見いだしている「正しい」生き方をする方について、否定するものではありません。

でも、どういう対策を取ればどれぐらい長生きするのかという相場が分かれば、自分がその立場に立ったときに、対策を取るか取らないかという選択がしやすくなります。


 ただ、考えておいて欲しいのは、高血圧の対策をして長生きする、といっても今の年齢をあと1年2年と繰りかえせるわけではなく、死ぬ前の1年2年を伸ばすことになる、ということです。

伸びた寿命をどう使うかも大事かも知れません。




*今の私は良寛さんの考えが良いと思っていますが、20年後には考えが同じであることを保証するものではありません。

80歳になって「血圧下げな死んでまうがな!」と思っていても責めないで下さいね。

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