医師とクスリ 1長生きの相場2
前回は日本人がどれぐらい長生きするかの相場について書きました。
あくまで寿命の相場なので、生きている=死んでいないというだけで、元気なのか寝たきりなのか、ということについては触れていません。
今回はその辺りの事情について、厚生労働省から発表されている統計を見ながら深掘りしていきます。
高齢者が元気なのかということのおおよその見当を、介護保険を使っているかどうかで見ていきましょう。
介護保険についてざっと解説すると、40歳以上の人が払っている保険料は、例外はありますが、65歳以上の高齢者の介護費用として払い出されます。
その額はどの程度の介護を必要とするか、という介護保険の区分に従って限度額が決まっています。
介護保険の区分は「自立」「要支援」「要介護」で、要支援2区分および要介護5区分があり、それぞれ数字が大きくなるほど支援・介護の度合いが高くなる、というものです。
それに加えて支援・介護の必要がなく、介護保険の払い出しを受けていない「自立」を含めた計8区分に分けられています。
そういった要介護度が性・年齢階級別でどうなっているかというグラフがこちらです。
※図表はクリックすると拡大されます。
*厚労省:介護保険事業状況報告 月報(暫定版)と統計局:人口推計の結果の概要よりデータを抽出して作成(以下同)
後期高齢者の手前、74歳の方までは、巷間「元気なお年寄りが多くなった」と言われるように、ほとんどが介護保険のお世話にはなっていません。
すごく大雑把に要支援、要介護の程度を解説すると、「自立」は字面の通り、「自分で日常生活を送るに当たって支援を必要としない人」ですが、
・要支援1・2:大概のことは自分でできるが、ちょいちょい助けてもらいたいこともある
・要介護1・2:家族の助けやヘルパーさんがお膳立てをすれば、決められた薬を飲んだり、一人で留守番
(代引きでない宅配の荷物を受け取る程度)ができます。
・要介護3以上:排泄管理が難しくなってくるので、日常的に家族やヘルパーさんの助けが必要
といったところです。(数字が大きくなるほど重症)
比較的若い世代は要支援を含めても介護保険を使用しているのは6%以内です。
続いて、後期高齢者を見ていきます。
並べて見てみると、年代が上がる毎に介護保険のお世話になる人が多くなっているのが分かります。
特に70代まではほとんど男女差がなかったのが、80代も後半に入ると女性の要介護・要支援の方の割合が高くなっているのが目立ちます。
日常的に高齢者の診察をしている立場で考えてみると、二つの理由が考えられます。
一つはこれは男女の体力(筋力)差が影響していると思われます。
グラフを見ると、85歳までは要介護3以上の重度介護が必要な方にさほど男女差がありませんが、要介護2以下の軽介護を必要とするのは女性の方が多くなっています。
頭はしっかりしているが、体力がなくて要支援/介護になっている、ということが推察されます。
もうひとつは男性の寿命が短く、状態の悪化した人はすぐに亡くなってしまうこと。
実際のところ、重度の感染症では生存率に男女差があることが知られており、男女を比べると女性の方が長生きする傾向にあるようです。
そのため、同じような病気になると、男性は亡くなってしまい、女性は障害を残しながらでも生きながらえる、という構図がそのまま反映されているのではないかと思われます。
要は生き残っている男性は介護を必要とする状況になるとすぐ死んでしまう、ということですね。
ただ、おじいさんの一人暮らしはポツンと孤立して誰も構ってくれないが、おばあさんのところには子や孫が集まってきて、「介護保険申請したら」とか、いろいろ世話を焼いてくれる、といった事情があるのかもしれません。
さて、90代を超えて、本格的に「長生き」と言える世代はどうでしょう?
女性は3/4、男性も6割程度が介護保険のお世話になっているようです。
参考までに病院に通院している人の割合は概ね60代で6割、70代で7割、80歳以上で3/4となっています。
前回お示しした平均余命表と今回の要介護度分布を見れば、男性が介護保険の世話にならずに元気に100歳になれるのはどれぐらいの確率か、ということが分かります。
とりあえず息をしている、という状態の人を含めて100歳を超える男性は約1.5%。
要介護・要支援ではなく自立の人が90歳以上で約4割なので、1.5×0.4=0.6%。
実際のところは90歳の方よりは100歳以上のほうが自立の人は少ないと思われるので、200人に1人以下、と推測されます。
大学受験で例えると東京大学医学部(偏差値77=上位約0.35%:進研ゼミHPより;以下同)に入るぐらい難しい、という相場が分かります。
同じように考えてみると、
90歳以上で自立の人は男性女性とも上位約11%で、神戸大学農学部(偏差値:62)同様、そこそこ狭き門になっています。
この数字は、割と元気な要支援程度の方を含まないので、要支援・要介護1・2+自立の割合でみてみます。
そうすると、90歳で一人暮らしできる程度に元気という人は男性:上位23%、女性:上位約35%となり、特に女性の場合は難易度が大幅に下がります。
ただ、総合的にみてみると、前項の平均余命をみる限りは、気を遣わずに適当に生活していても、バブル期ぐらいの感覚では長生きできるといえそうです。
東大医学部に行くような人は元々地頭が良いうえに、それなりの勉強・対策をしてきた人です。
そこを目指すには高校時代からスポーツや恋愛、クラスメートとの交友を制限する必要があります。*凡人の想像です
同じように100歳で元気な人は、元々頑強な身体と絶え間ない節制をしてきた人です。
そこを目指すには食べ物飲み物生活習慣に、意図するとしないとに関わらず、制限が必要です。
楽しい会食や旅行などで、はっちゃける人はこのレベルには達することは少ないのではないかと思います。
東大に行けば必ず幸せになるとは限らず、高卒が必ず不幸になるというわけでもないのと同じように、節制して長生きすれば必ず幸せになるとは限らず、美食と快楽を求めれば必ず不幸になるわけではありません。
どのくらいの長生きを目指すかは、完全に個人的な問題です。
お医者さんに尋ねてはいけません。
でも健診などで病気や異常があると言われた場合には、どんなお医者さんにかかれば良いのでしょう?
今後はそのあたりを掘り下げていきます。
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