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医師とクスリ 医師とハサミは使いよう


 私のクリニックは『減薬』を謳っていることもあり、よその病院でクスリをたくさん出されて不信感を持ったとか、検診で数値が引っかかり産業医にすぐにクスリを飲めと言われたがホンマに飲まなあきませんか? といった、いわゆる『クスリを飲みたくない』患者さんがよく来られます。



クスリを飲まないと症状が出るなら患者さんも納得して飲むでしょうから、減薬の対象となるクスリは、いわゆる『予防系』のクスリです。

特に内科で多いのが、血圧・コレステロール・糖尿のクスリで、動脈硬化の進展を防ぐためのクスリです。

しかし、体調は何ひとつ変わらず、飲まなければ検査の数値が悪くなるだけなので、飲む意味を見いだせないのです。

 とは言うものの脳卒中や心臓発作を起こすのも怖い。

しゃあない、病院行ってホンマに飲まなアカンか聞いてみるか。

で、病院に行くと医師から『クスリを飲みなさい。』と言われて、納得しないまま通院することになる。

こういう方が当院によく来られるのです。


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 あなたがお金を増やしたいと思ったとき、

・学校の先生に相談すると『資格を取れば給料が上がります。学校に行きましょう。』と言われる。

・銀行員に相談すると、『元本は絶対に確保できます。預金しましょう。』と言われる。

・証券会社の人に相談すると『今、ハイテク株がアツいです。株を買いましょう。』と言われる。

・不動産屋に相談すると『家賃を取れて値上がりも狙えます。マンションを買いましょう。』と言われる。


・奥さんに相談すると『しょうむない話せんと早よ会社行って働け!』と言われる。

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 あなたが血圧が高いと言われたとき、

・病院の先生に相談したら『放置すると脳卒中になります。クスリを飲みましょう。』と言われる。

・栄養士の先生に相談したら『栄養のバランスが大事です。食事を改善しましょう。』と言われる。

・ジムのインストラクターに相談したら『運動不足です。ジムに通って運動しましょう。』と言われる。

・霊媒師に相談したら『この家に憑いている地縛霊です。ご祈祷しましょう。』と言われる。


・奥さんに相談すると『お酒飲んで辛いもん食べるからや。酒代も要らんから酒飲むな!』と言われる。

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 そうなんです。

みんなあなたのために、と思って解決法を考えているのですが、結局は自分の得意分野(仕事場)で見ていることしか見えていないのです。

この事について、アブラハム・ハロルド・マズローさんが

「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」(If all you have is a hammer, everything looks like a nail.)

と表現されています。

確証バイアスとも言うそうです。



 お医者さんにもいろいろな種類があります。

その中に会社で雇われる産業医や専門医という種類の医師もいます。


 大きめの会社には産業医がいますが、産業医は健診の際にコレステロールや血圧などの決まった数値基準を超えると、受診を促すように指導する義務があります。

幹線道路でスピード違反の取り締まりをしている警官がキップを切るようなものですね。

少し基準を超えただけでアレコレ言わないで、と、あなたは思うかも知れません。

しかし、産業医としては言わないことには仕事がなくなるので、産業医に文句を言ってもどうしようもありません。


 さて、あなたは、産業医に促されて病院に行くときに、なんとなく安心できそうと、大きな病院や専門の診療所を受診します。

すると、どうなるか?


 専門医は、診療ガイドラインに従って決まっている数値基準を超えると、服薬・治療を促す傾向があります。



 チェーンの外食店の多くでは、調理の下ごしらえをした状態で最後の仕上げだけを各店舗で行い、セントラルキッチンから運ばれる食材を使用しています。

その食材を使って最後の仕上げだけをマニュアル通りに各店舗で行い、決められた手順で接客を行います。

そうすることで、同じチェーン店なら同じ料理を同じように提供することができます。


 診療ガイドラインは同じように医療の標準化をするために作られた物で、一般的かつ最も効果の高い治療をまとめたものです。

言わば病気の種類ごとの取扱説明書のようなものですが、取扱説明書が役に立つのは誰でも使える点です。

 循環器内科の専門医は高血圧治療の仕組みについての深い理解があって血圧のクスリを処方し、耳鼻科専門医は花粉症に対する深い理解があって、花粉症(鼻アレルギー)の治療を行っています。

しかし、『高血圧診療ガイドライン』や『鼻アレルギー診療ガイドライン』があれば高血圧や花粉症の治療ができてしまいます。

 言い換えると、医師免許があれば『高血圧診療ガイドライン』を見ながら耳鼻科医が血圧のクスリを出すこともできるし、『鼻アレルギー診療ガイドライン』を見ながら花粉症の治療もできてしまいます。


 治療の方法が分かればそのための道具・材料が必要です。

材料となるクスリは処方箋に薬品名と飲み方を同じように書けば、ほぼ全ての医師が同じクスリを処方できます。

道具は検査機器で、これも同じ指示箋を書けば、同じ検査結果が返ってきます。

患者さんが減らして欲しいという患者さんが多い、高血圧・高コレステロール・糖尿病などの生活習慣病に関しては検査の種類も多くありません。

外来で治療するレベルではそこまで複雑ではありませんし、複雑にしすぎると治療ガイドラインが成り立たなくなってしまいます。



 大学病院やブランド病院などの大病院では、ほぼ全ての医師が専門または専門医を目指す専攻医によって外来診療が行われています。

 深い理解があるがゆえに、最も効果の高い診療ガイドラインというハンマーを手放すことができないのが専門医です。

専門性が高くなればなるほど、より医学的に正しい治療を目指します。

ということは指導が厳しくなり、クスリをたくさん出してもしっかり数値を下げる治療をします。

AIは『できるだけ間違いがない答え』を探すが得意であるので、同じようなものかもしれませんね。



 専門医の立場から外来の患者さんをみると、

最高の治療を受けたくて来ている患者

=クスリをたくさん出して厳しい生活指導をして欲しい患者

=ガイドラインに従った診療を希望する患者

という図式が成り立ちます。

それに応えてクスリが多くても医学的に最も正しい治療をするのは、なにも間違っていません。



 チェーン店のレストランで、セントラルキッチンから送られて来ないものをメニューに載せる訳にはいかないのです。

メニューに載っていないものが食べたければ、そういう店に行って下さい、ということです。



 生活習慣を本格的に直したいと思っているなら、大きな・専門的な病院は強い味方になってくれます。

でも、あなたが軽い・大したことないと思っている病気で、医師との信頼関係もできておらず、できるだけクスリも飲みたくないと思っているのなら、そういうところにかかのは止めた方が良さそうに思います。


 アンチ専門医的な書き方になってしまいましたが、専門医の先生方の最も力を発揮する場所は、急性期の入院治療です。

先ほど、ガイドラインを見ながらなら誰でも治療できると書きました。

プロがプロたる所以は、あらゆる分野で言えることですが、問題解決の速さにあると私は思っています。

入院中のような、ゆっくりガイドラインを読んでいるあいだに刻々と状況が変わる場面では、正しい治療を即座に判断して実行するには深い知識と経験が必要です。

外来のような、下手すると3ヶ月・半年先のクスリまで処方されるぐらいゆっくりと時間が流れている場面ではスピードは要求されません。

そんなことで専門医を疲弊させるより、入院患者のような状態が変わり易い患者さんの治療にその能力を使った方が社会的に役にたちます。


 ハサミがよく切れるからといって、木の枝にも段ボールにも使っていると、刃こぼれして細かいものを切るときにうまく使えなくなります。

医師とハサミは使いようです。




 要約

・大きな病院や専門の診療所を受診すると、クスリをたくさん出されても文句は言えない。

・専門医は入院・急変の時に使うものなので、外来で使い過ぎるとすり減るので、使いどころを考えましょう。

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